ヨーロッパ著作権法13条「コンテンツ認識技術」は本当にインターネットを破壊する、11条「リンク税」は言及したら負け

ヨーロッパ著作権法、直訳すると「デジタル単一市場における著作権に関するヨーロッパ議会と委員会の指令」は、2018年7月5日にヨーロッパ議会で否決された。9月頃には修正案が採決される見通しである。

ヨーロッパ著作権法についての日本語圏の言及は、11条を「リンク税」と揶揄する記事リンク税言うなキャンペーンの泥仕合が主流である。それを後知恵で解説する記事もあり、いずれも責任ある態度とは思えない。

7月5日の否決に向けた戦術としては、それが事実であるかどうかに関わらず、11条を「リンク税」と揶揄することは有効に作用した可能性がある。しかしながら、9月の修正案の採決をめぐっては、事態はまったく異なる。評判の悪い11条を削除または修正することで、他の破滅的な条文が温存されたまま、議員たちが満足する可能性があるからだ。

11条は著作権所有者が報道機関に限定されることが明記されているので、影響は限定的である。それに対して、13条は、ユーザーがメディアをアップロードすることができるすべてのウェブサイトに、コンテンツ認識技術の導入を義務づけることが (解釈によっては) 可能である。

ここで、すでに存在するコンテンツ認識技術であるGoogle Content IDについて見てみよう。Content IDについての不満はインターネットで広く見ることができる。よくあるのは、誤検出によって広告料収入が横取りされている事態と、そもそも広告料収入の横取りを狙ってContent IDを利用しているユーザーがいるらしいということである。気の毒なのは、著作権所有者による一方的な規約の変更という、第三者から見れば著作権所有者に非があるであろう事態において、Content IDの申し立てを受けた側が「それにしても穏便な処置です。ここは著作権者様に感謝ですね。」などとすっかり委縮している例があることである。

広告料収入の横取りも重大な事態ではあるが、より深刻なのは、Content IDを言論弾圧に利用できることである。たとえば、BGM用のイージーリスニング楽曲や、装飾用のエフェクト画像を「フリー素材」として広く公開したうえで、Content IDを利用するという手法がある。この手法は広告料収入の横取りにも利用できるし、より深刻なのは、政治的な党派、あるいは人種や宗教といったセンシティブな属性を標的にして、特定のメディアを削除することができることである。

著作権所有者が、その地位を利用して、インターネットコミュニティに対して過大な要求をすることは、しばしば問題になっている。古典的な例では、MMD界隈における複数の騒動が知られている。Content IDとコンテンツ認識技術は、この種の著作権所有者に、テクノロジーとコンピューティングの力を与えるものである。

Content IDの利用登録画面では、個人やバンドを選択することも可能である。無名あるいは偽名を用いた個人であれば、Content IDの濫用も簡単であろう。では、Content IDの利用を、信頼できる企業や著名人に限定することは、問題の解決につながるであろうか?

ヨーロッパ著作権法の提案文書では、著作権所有者のために透明性と交渉能力がもたらされることを重視している。インターネットは広大なので、著作権所有者は自分たちの知的財産がインターネットのどこにアップロードされているかを知ることは困難である。そして、自分たちの知的財産がどこにアップロードされているかを知らなければ、交渉を開始することもできない。EUの委員たちが、苛烈な反対意見に晒されながら、なおも「コンテンツ認識技術」を法案に盛り込むことにこだわったのは、この考えがあるためである。

だとすれば、Content IDが有名企業とセレブリティだけを優遇し、インディーズとアマチュアを締め出せば、より大きな批判を浴びるだろう。もちろん、その場合には、無名ないし偽名の者たちによる悪用を防ぐのは困難になる。このジレンマは、Googleの圧倒的な技術力をもってしても、解決することは難しい。

ヨーロッパ著作権法案の13条は、コンテンツ認識技術の導入を一律に義務づけるものではない。コンテンツ認識技術はあくまでも例示であり、実際に義務づけられるのは「適切かつ比例した措置」である。Googleのような巨人にとっては、現行のContent IDですら「適切かつ比例した措置」と言えるかどうかは疑問である。むしろ、デジタルウォーターマークのような先進的な技術を率先して導入することで、範を示すべきだろう。対照的に、PeerTubePixelFedのような零細勢力にとっては、「何もしない」ことすら「適切かつ比例した措置」として妥当であるという主張も可能である。

いずれにせよ、誤って「リンク税」と揶揄されている11条は、議会での交渉のための「おとり」であった可能性がある。本当にインターネットを破滅させるのは13条である。9月の再投票の結果が決まるまで、ヨーロッパ議会の動向から目が離せない。

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投稿者: Hakaba Hitoyo

墓場一夜

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